「おーい、ともき、バイトどーすんだよ」
「んなこといったってさー、いいバイトないじゃん」
「ああ、今年の夏こそ金貯めてさ、ソープでも行こうぜ」
  大学に入学した始めての夏休み前、俺、元治は、親友の朋貴と一緒に今日も俺の部屋でごろごろしている。
「なるべくならさー、二人で出来るのがいいよな」
「んなこと言ったってさー、お前背ちいせーだろ。引越しとか倉庫無理だしなー」
  朋貴は確かに背が小さい。俺が175有るのに、こいつは158しか無い。体使う引越しとかの時給のいいバイトは1週間も続かない。
「あ、ゲーム関係とか無いかな。俺大好きなんだけど」
「やめとけよそんなチンケなの。俺も好きだからさー、今見てたけど。いいのねえよ」
「でもさ、俺みたいに小さいのはここで割り切ってさ、何か販売とかサービスとかにした方がいいと思うけどな」
  最近薄くなったアルバイト誌をぺらぺらめくりながら、いろいろぶつぶつ言ってる横で、寝っ転がった姿勢から煙草に火を付け、その手でPSの電源を入れる俺。そう言えばこいつの次の奴発売されたんだよな。
「ゲームデバッグのバイトとか有ったんだけど、競争率高ケェーんだよな」
「今なかなか無いぜ。あ、これなんかいいじゃん」
  ゲーム機のどどーんという音が聞こえる中、俺は朋貴から情報誌を奪い取り、目を通した。
「ゲーム機、ゲームソフト販売補助。時給750円…か、安いなあ」
「もとはるー、これにしょうぜ。あんまり選ってもさあ」
「わーった、いいよそれで」

「おい、朋貴、女ばっかじゃんかここ。しかもさ、すっげえ可愛いメイドみたいなコスチュームじゃん」
「店長も女だったよな。でも店内で一人むさいGパンの太った男がいたよなあ」
  そのゲーム販売店の女店長の面接を受けた後、控え室で休憩している俺達は、ちょっと変わった雰囲気に小声で話し合った。小奇麗な店先に可愛い女の子2人と、太ったメガネの大男1人、倉庫係も女の子1人
「時給安いけどさ、環境がいいじゃん」
「ま、まあな。でもさ、みんなガキばっかじゃねえかよ」
「おい、店長が来る」
  朋貴が気配を察知し、僕の言葉を制した。
「お待たせ致しました。お二人採用致します。ええと、主に倉庫での荷物の搬入、返品搬出、商品陳列、清掃をお願い致します。あとお二人ともかなりゲームの知識がおありの様子なので、お客様のご質問の対応も出来る限りお願い致しますね。それとうちは女性客が多いので、言動とかには注意して下さい」
  俺達はやっとバイトにありつけた。

  翌日、俺達が店の倉庫側裏口から入ろうとした時、昨日見たあのメガネ大デブが血相変えて飛び出してきた。
「あ、ちわーっす」
「うぃーっす」
  俺達の挨拶に気付き、そいつは俺達の所にふと近寄ってきた。
「き、君達、き、今日からのバイトですよね。こ、こんなむずがゆい所、や、やめたほうがいいですよ!」
  油切った顔を真っ赤にさせながら、そいつは駅の方へ行った。
「なんでぇ、あいつ辞めるのか」
「いいんじゃねえか、この店にあんなのは不釣合いだよ」

  店に入るといきなり女店長の呼び出しが有った。
「実はね、店内担当のバイトが今日辞めちゃってね。まあ、前から皆と折り合い悪かったんだけど、それで、急遽1人店内に回って欲しいんだけどさ。店の女の子達のリクエストと商品知識で朋貴クン、申し訳無いけど入ってくれないかな」
「あ、いいっすよ、俺」
「もとはるクンは倉庫で、いい?」
「あ、別にいいっすよ、俺も」
「それじゃ、今日の朝礼始めますから、店の方に来てください」
  店長が店の方へ行ったのを確認した後、俺は朋貴に体をぶつけた。
「なんでえ、おめえだけいい思いするみてぇじゃねえかよ」
「いいじゃねえかよ、俺が見つけたバイトじゃん」

「それじゃ、今日から入ってもらう人を紹介します。うちは皆名前で呼び合う事にしてますので。こちら倉庫に入るもとはる君、そして店内に入るともき君」
「宜しくお願いします。店内担当のミキです」
「店内レジのリカです」
  薄い緑のちょっとメイド服に似たコスチュームの可愛い二人が挨拶。そして
「倉庫のサユリです。宜しく」
  赤のタータンチェックのスカートに同じ柄の襟の付いたブラウスの眼鏡の可愛い子が挨拶。
「ねえ、あのデブ辞めたの」
「あ、昨日で辞めるって本人から」
「良かったーっ、これで私達のカラーが統一出来るよね」
「本当、あのデブ、早く辞めて欲しいっていつも…」
  女達と店長が好き勝手な事言ってやがる。
「でも、この店ここまで大きくなったのは彼の功績も大きいし」
「そんなの関係なーいっ、女の子が気軽にゲームとか買える店にしようって皆で誓ったんだから。ゲームの知識だけしかないただの不潔野郎なんていらない!」
  口々に言う女の子達に店長も圧倒されている。
「おい、なんか大変な所にバイト来たんじゃねえか?」
「え、いやあ、俺はそうは思わねえけどよ」
  俺の言葉に朋貴は特に気にもしない様子だった。
  2、3日は特に何も無い日だった。朋貴はレジとかで何か女の子達となんだかんだ話していたし、倉庫の俺はそんなに仕事も無く、1日タバコをふかしていた。
  俺と朋貴はアパートも近いので、帰りはいつも一緒だ。
「なんか、女の子は可愛いけどさ、刺激のねえバイト」
「おめえ、レジだし女いるからさ、まだいいだろ。俺倉庫で一人だぜ。サユリは1日机で伝票書いてるし」
「まあ、だるいけど、そこそこ金にはなるぜ」
  咥え煙草であれこれくだらない話をしながら、俺達は帰り道を急いだ。

  その日、俺がサユリから指示を受け、ゲームソフトの在庫を調べていた時、ミキが倉庫に駆け込んできた。
「サユリ!Mサイズの店用のコスチューム出して」
「あミキ、いいけどさ何に使うの?」
「朋貴クンに着せるの」
  俺は驚いて持っていたゲームソフトを段ボール箱ごと床に落とした。
「お、おい、朋貴に何するんすか?」
「え、やっぱりさ、カウンターは女の子で統一したいし、朋貴クンゲームすっごく詳しいし」
「あ、背が小さいし、顔立ちいいからさ、化粧すれば…」
  その時、どたどたと音がして朋貴が倉庫に駈け込んで来た。
「リカさん!その、化粧だけはやめてくれよ!」
「えー、店長もOKしてるのよ。時給UPだって考えてくれてるみたいだしー」
  緑のメイドコスチュームの胸元を直しながらリカがすねる。
「もとはる、お前やれよ」
「嫌だよ、俺そんなの」
「だめ、もとはる君背高いし、第一合うコスチューム無いよ」
「朋貴、お前が選んだんだろここのバイト。俺はしらねえよ」
  俺はにやにやしながら朋貴の顔を見た。
「はい、決定ね。じゃ店長の所に来てね」
  リカと朋貴が店長室へ消えて行くのを見届けた後、俺はふーっと溜息ついてタバコに火を付けた。
「サユリさん、ここの人って、ああいうの趣味なんすか?」
「あ、知らなかった?みんなショタなんだから」
「ショタ?何すかそれ?」
  サユリは伝票の手を留めてメガネ顔をこちらに向けた。
「簡単に言うとさ、可愛い男の子達が好きな人達なの。ともはる君はかっこいい系だけど、今は可愛い系が流行ってるのよ」
「ふーん、そんなもんすかねえ…」

「おい、朋貴!何だよその格好!」
  店長室からリカと揃いのコスチュームで出て来た朋貴を見た時、一瞬俺は吹き出した。でも、なんか違和感てものが無い。その、化粧した奴の顔は何だか予想以上に女っぽかった。
「ともはる、あんまり見んなよ。それよりさ、これやると手当て1日1000円出るらしいぜ」
「俺はいいよ、1000円でその格好はちょっとできねえ」
「いいっ、あんたなんかに頼んでないからさ、さ、トモ君行こう」
「ともはる!誰かに言ったらぶっころすからな」
  朋貴の背中を押す様に、奴達は店に行った。椅子に座ったサユリがくすくす笑ってやがる。

「おい、近寄んなよ。なんかまだ化粧の匂いすんぞ!お前」
「いいじゃんか、1000円アップだぜ。それにさ、俺今日あの格好で何も喋らなかったらさ、結構気づかれねえんだぜ。なんかすげえおもしれえよ」
  その日の帰り道、朋貴は残った化粧の匂いとメイク落しの匂いぷんぷんさせてやがる。
「いいからさ、化粧臭ぇから、こっちくんなよ。まあ別にそれとなしに見れた面だったからいいけどさ、おめえホモんだけはなるなよ」
「んな気持ち悪い事するかよ」

  翌日も、その翌日も朋貴はメイド服着てレジに立っていた。俺は相変わらず倉庫で裏作業。元々俺ゲームとかは好きなんだけど、どうも俺の知らないソフトが結構有る。
「薔薇の園?夏少年?栗の華伝説…、サユリさん、俺こんなソフト見た事無いっすけど」
「ああ、それね。女の子向けのマイナーソフト、もしくは同人ソフトなの。この店が繁盛しているのはその手のソフトのおかげなのよ」
「へえー、そうなんすか」
「まあ、少年愛とかのゲームとか裏ソフトとかさ、うちのその手の品揃えに関しては、多分日本でも5本の指に入るしね」
「こんなのが、そんなに売れるんすか」
「あのデブがいた頃はロリータ系ばっかだったんだけどさ、競争相手多すぎてね。こっちにしたの」
  長い髪の毛を揺らし、パソコンに何やら入力しながらサユリは続けた。
「後さ、私とか、ミキとかリカとかさ、そういうのだーい好きだから。私達の眼力で持ってるみたいなものよ、この店」
  なーんか危ねえ店だなあ、なんて思いながら俺は店を覗く。そこではメイド服着た朋貴がちゃっかり女の振りしてレジ打ってやがる。
  その日の帰り、俺は私用で朋貴とは別行動となった。朋貴の奴、何か女共に連れられてどっか行ったらしい。まあ、好きにしろよ。

  次の日、喉が痛いとかでちょっと遅れる、との朋貴のメッセージを預かり、俺は店に出勤した。男子用ロッカーの前で、俺は朋貴のロッカーをふと開ける。
「あの野郎、こんなコスチューム着て、良く平気だな」
  俺がロッカー室から出て行こうとした時、
「あ、遅れてごめんね」
  喉の痛みのせいか、がらがら声で遅れた朋貴が入って来る。
「おめえ、昨日何やってたんだよ、あいつらと」
「あ、ちょっとカラオケに行ってたんだよ」
  朋貴は何のためらいも無く、ロッカーを開け、服を脱ぎ、あのふりふりのブラウスを着始める。え、おいお前?
「おい、朋貴よお、おめえいつからブリーフにしたんだ?」
「え、これか?いや、前も履いてたけどさ?」
「そうかあ?まあ別にいいけどよ」
  ブラウスにミニのふりふりスカートを慣れた手つきで着る奴、おおおお、見たくねえ見たくねえ。
「さあ、仕事仕事」
  多分、また化粧するんだろ。店長室に消えて行く奴を目で追いながら、俺は首をかしげる。
  俺は何か気になって、時折店を覗く。そこには相変わらずレジ打ってる奴がいた。しかし、
「おい、朋貴、おめえ…」
  ミキ・リカと一緒になって
「いらっしゃいませえ」
「ありがとうございましたあ」
  声こそ低めだけど、オカマの裏声みたいな声であの野郎客に挨拶してやがる。しかも、何やらなじみの客らしき人と会話まで!?
「トモ君、可愛くなったじゃん!ほんと」
「あ、ありがとうございますう」
  お、おい。お前何やってんだ。それとさ、おい、しゃがむ時スカートに手を当てるなよ!気持ち悪い!!

  その日の帰り路、俺は口が少し重かった。
「なあ、朋貴よ」
「え、何?」
  なーんか返事とか、最近調子狂ってくるんだよなあ。
「そのさ、おめえ、大丈夫か?」
「え、大丈夫って、何がさ」
  俺は立ち止まって朋貴の方を向いた。
「あのさ、お前最近何か変じゃねえか?変な声で客に挨拶したり、仕草とかさ、言葉とかさ」
「えー、別に普通だよ。あ、あの声はさ、最初黙ってろって言われててもさ、なんかお客から言われたら答えなきゃなんないし、ほら前カラオケ行った時にちょっと訓練したんだよ」
「いや、ともかくさ、以前のお前とどっか違うんだよ」
「そんな事ないぜ、俺は俺だよ。あそこでバイトしていく以上さ、仕方ない範囲だろ」
「ま、まあ、おめえがそう言うなら、別に俺は心配してねえけどさ」
「まあ、気にすんなって。俺は大丈夫だからよ」
  なんか久しぶりに昔の奴の口調を聞いた。まあ俺の気のせいだろ。

「あの、店長!やっぱり眉毛剃るのは勘弁して下さい」
「えー、だめだよ。ちゃんと形整えないと。接客業なんだからさ」
「だめですよ、頼みますから!」
「いいのよ、別に他の人雇っても」
  朝、店長室から聞こえて来る朋貴とミキと店長の声に俺は嫌な予感がした。
「ほら、眉毛なんてすぐ生えて来るからさ」
  10分後、店長室から出てきた朋貴の顔を見た俺は息を呑んだ。細く整えられた眉に念入りに化粧された顔、奴の顔に少し可愛い少女の面影。流石に俺に目を合わせる事無く、奴は店に行った。
「サユリさん、あれひどいっすよ。朋貴可愛そうだよ」
「そう?でもトモ君時給950円に上がったよ。眉剃るだけでさ。本人の為でも有るし。昨日まではトモ君もOKしてたんだよ」
  けっ勝手にしやがれ、朋貴の奴。
「もとはる君、ちょっと来てくんないかな」
  店長室から俺を呼ぶ声がした。げっ今度は俺かよ。俺は絶対嫌だぜ。俺はそう思いながら店長室へ向った。
「もとはる君、お願いなんだけど」
「え、俺も化粧っすか、嫌ですよ、そんなの」
「いいえ、違うわよ。残念だけどね」
「あ、そうっすか…」
  店長はスーツから出る足を組替えて俺に向き直った。
「いくつかのクライアントから倉庫の棚卸頼まれてるのよ。明日から1週間行ってくれないかな。時給は1500円で8時間、残業有りで」
「ええ、本当っすか。俺で良ければ行きますよ」
「じゃお願い。場所は…」
  1日最低12000円、7日で84000円じゃねえか!やりぃ!PS2がソフト付きで余裕で買えるぜ。朋貴の事で何か言おうとしたけど、もう別にどうでもいいや。

  帰り路、俺はもう何も話さなかった。ミキに貰ったとかいうリップクリームを口紅みたいに塗りながら、朋貴はぺちゃくちゃと俺に話し出す。
「あのさ、メイク落すって大変なんだよ。順番とか指の動かし方とかさ、ねえ、聞いてる」
「うっせえなあ、お前やっぱり変わったろ!あんな格好してさ」
  それにしても、眉毛一つでここまで変わるのかよ、朋貴の奴。ほんの3週間前までちゃんとした男だったのにさ。
「お前さ、本当に何も変わってないって思うのかよ」
「えー、だって僕さ、眉毛剃っただけじゃん」
「おめえさ!今まで俺の前で「僕」なんて言った事有んのかよ!」
「え、あ?無かったっけ?」
  俺はもう情けないやら悲しいやらで、朋貴の肩を掴んで揺すった。
「あのさあ!お前変わったよ。昔の俺のダチのお前に戻ってくれよ!友達だろ。なんか女々しくなっていくおめえ見てるとさ、俺怖いんだよ。頼むからさ!」
  朋貴はじっと俺の目を見つめていた。そしてなんか女みたいな目で微笑む。
「大丈夫だよ。少なくともさ、今のバイトやってる間だけだと思うからさ。バイトが終ったらさ、またバイク乗ってさ、女ナンパしに行こうぜ」
  朋貴のその言葉を聞いた俺は、何かすっとした気分に。同時に誤解していたという自責の念に捕らわれた。
「悪い、言いすぎた。聞き逃してくれ。悪かった」
  俺の思い違いだ。朋貴は少しでも金を稼ぐ為に今の環境に必死になじもうとしてたにすぎねえんだ。肩を落す俺の背中をポンと叩く朋貴に、俺は安堵した。

  1週間過ぎたその日。久しぶりに奴が俺のアパートに迎えに来る日だ。棚卸バイトは即金渡しだったのがすっげー嬉しい。今日は帰りに久しぶりに朋貴とメシでも食いにいくか。
「ともはるー」
  え、何だ?あいつが来たのか。ドアを開けたその時、俺の目に飛び込んで来たのは!
「朋貴、て、てめえ…」
  耳に赤のピアス、そしてピンクの女物のTシャツ、そしてたぶんレディースだと思うがスリムのGパンを履いた奴がいた。
「ともはるー、1週間お疲れ様―っ」
  手を握ろうとしたその手を俺は振り払った。
「てってめええ!朋貴!それでブラジャーしてたらぶっ殺すとこだったぞ!!」
「ともはるー、何怒ってんだよぉ」
「うるせえ!俺一人で行く!」

「あれ、あいつのロッカーが無いぜ」
  男子ロッカー室には俺のロッカーしか無かった。朋貴の奴、まさか辞めたのか?その時、
「おはようございまーす」
  あの格好で朋貴がやってきた。
「お、おい朋貴…」
  俺の声をわざと無視し、奴が向った先は、
「お、おい、冗談だろ、…朋貴」
  奴が向った先は、女子更衣室だった。
「おはよーっ」
「トモ、おはよーっ」
「おはよーっ、調子どう?」
「うん、全然平気だよ」
  俺はポカンとして女子更衣室の前に立ち尽くした。女達と朋貴の楽しそうな会話、そしてどうやら奴は女子ロッカー室でメイクまでしているらしい。俺は完全に孤立感を覚えた。
「あ、そろそろ時間だよ」
  女子更衣室のドアが開き、皆が出て来る。
「ともはる君おはよー」
  俺の横を擦りぬけ、形だけの挨拶を俺にしていく女共。そして最後に、
「ともはるクン…おはよう」
  俺の横をすりぬけ、俺の顔も見ず、逃げて行く様に店に向う朋貴。そして俺の目にはその光景がくっきり焼きついた。朋貴の来ているブラウスにくっきり浮かんだブラジャーの線が…。
  厚い夏だった。俺はまだバイトを続けた。誰に話しかけるでもなく、誰に声かけられるでもなく。本当に冷たい奴等だぜ。でもそんな中、朝だけはすっかり変わり果てた朋貴が、毎日俺のアパートに迎えに来やがる。俺は当然無視だ。もう間違い無い。朋貴はあんな服を着せられたが為に、女共におもちゃにされ、いつのまにか奴も知らないうちに、女みたいに、いや、女に変えられていったんだ。
  もう朋貴とは何日も喋っていない。喋る気にもならねえ。そんなある日ある時一人孤独にバイトしている時、店長室から奴と店長の会話も聞こえてきた。
「トモ君。どう、お医者に行ってる?」
「はい、行ってます。今日で3回目です」
「学校へはまだ行くの?」
「え、ふふっ、行ってもあんまり意味無いかなって思います」
「どう、ここの正社員にならない?ただし、最低限、体を女の子にするまではバイトでいいよね」
「わあ、嬉しい。有り難うございます」
  俺のダチの朋貴は、もういない…。

 飽きもせず、毎日俺のアパートに朝迎えに来る朋貴。いいかげんにしてくれ!でも、奴が女として可愛くなっていくのだけは認めてやろう。俺が無視していると、奴は寂しそうに歩いて行くのを窓から見ていた。Gパンと女物Tシャツに、いつしかブラが透ける様になった。肉がついて丸くなっていく太もも。女みたいに膨らんでいく胸、大きくなっていく尻。最初はおかまみたいになった奴だけど、だんだん中性に、そしてとうとう女っぽくなって行きやがった。とうとう最近はスカート姿で俺のアパートに。あああ!見たくねえ!見たくねえ!
 夏休みの終りと同時に俺はバイトを辞めた。店長の渡す給料袋をひったくる様にして俺は店を去った。もうここへは2度と来る事は無いだろう。

  あれから2ヶ月経った。奴は休学届けを出したと聞く。まあ、そんな事別にどうでもいいや。そう思っていた矢先の事だった。
  アパートのドアをノックする音に、俺がドアを開けると、そこには一人の可愛い女が立っていた。
「え、誰…」
  言いかけて分かった。
「あたし…、朋貴。今…ともみになってるわ…」
  見事に可愛い女になったのは認めてやるけどよ。
「知らねえ!朋貴なんてしらねえ!!」
  俺がドアを締めようとした時、奴は俺の部屋に滑り込んできた。ピンクのスカートに白いブラウス。すっかり変わった朋貴が、畳にぺたんと座った。
「何だよ!俺おめえなんかしらねえよ!帰れ!!」
  ところが意外にも、奴はその言葉に両手を顔に当て、泣き始める。こうなっては俺もちょっとバツが悪い。ドアの鍵を締め、奴の前に座り、様子を見る事にした。少しの間沈黙が続く。やがて奴が喋りはじめた。
「私、明日シンガポールへ行きます。手術で。その前にどうしても、お詫びとお礼がしたかったの」
  俺はタバコに火を付けると、知らぬ顔を決め込んだ。
「懐かしい匂いがする。この部屋で、そのタバコ」
  俺はだんまりを決め込んだ。
「許してくれないんだね。私…いや俺を」
「いいよ、無理して男言葉使わなくても」
  朋貴の目から涙が一筋流れた。
「ねえ、ねえ、悪いのはわかってるー、それでさ、最後のお願い聞いてくれる?それ聞いてくれたら、もう絶対会わないから」
「何だよ、言ってみろよ」
  最後と聞いちゃ俺だって聞いてやらねえとな、俺もそんなにケチな男じゃねえし。朋貴は長い髪をかきあげて、俺を見て、涙声で喋り始めた。
「ほら、バイト前にさ、ソープ行きたいって言ってたじゃん。あたしが今、やったげるよ」
  お、おい待て!冗談じゃない!そんな事!!
「ともはるぅ…」
  いきなり俺の唇に吸い付いてきた奴、
「お、おいやめろ!うっ」
  俺は即座に奴の体を振り払おうとした。だが、その手が少し力が抜ける。俺はしばし奴にされるままになっていた。それは…
  男の時の奴とはキスなんかしていねぇけど、その唇はとても柔らかかった。俺を愛撫するその手は柔らかくすべすべしている。俺にのしかかっていくその体は、以前ふざけて乗られた時とは全く違い、柔らかく、生暖かくぷるぷるした感触で、ブラジャー越しに小さく膨らんだバストが俺の体を擽った。
「おっおい、よせよ!おい…」
  だめだ、女体と化した奴の体に、俺は女を感じ始めたらしい。
「ともはるっ、ともはるう、元気でね。いろいろありがとね…」
  俺の頭の中に、奴との思い出が、走馬灯の様に走って行く。始めての講義で隣り合わせになり、その日のうちに麻雀で仲良くなった俺達。バイクで九州ツーリングで同じバイク女をナンパした事。金がなくて一つのラーメンを分けて食った時の事、引越しのバイトで怪我した奴を介抱した時の事。
  相手が男で、しかも元俺のダチだっていうのに、今まで女を抱いた事の無い俺にとって、柔らかい脂肪の塊になった朋貴の体は刺激が強すぎる。だめだ、理性がふっとんじまう!無意識のうちに俺の手は、奴のスカートを脱がし、ブラウスを剥ぎ取ってしまった。その手でブラをむしり取ると小く膨らんでしまった奴の胸が見えた。むちむちし始めた奴のお尻、そして太腿、奴の柔らかくなった体を俺は愛撫してやった。その最中、
「ともはるーぅ、好きだったよ…」
  奴は嬉しそうに、でも涙声を上げながら俺のズボンに手をかける。俺と、女になった俺のダチとの最後の友情行為、その奇妙な友情行為は夜更けまで続いた。

  次の日の朝、俺が目を覚ますと奴は消えていた。簡単な置手紙とトーストとコーヒーの簡単な朝食が置いてあった。それは涙で濡れたしょっぱいトーストだったが、それが奴の涙なのか、俺が後で付けたのか分からなかったけど、俺は貪る様に口に入れた。何年ぶりだろうか、俺が声を上げて泣いたのは。

 それから何ヵ月か経った頃、俺のバイトしていた店の記事が、某ゲーム雑誌に掲載されていた。水色の可愛いスカートに、ビキニブラ姿のミキ・サユリ・リカ、そしてその横には大きなバストの美少女に変身した朋貴が、ゲームソフトを持ってにっこりしていた。

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